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第2回 ガレージからゴールド・スターへ(2)

 キャピトル・レコードと契約したビーチ・ボーイズ(ワイキキで観光客相手にサーフィンを教えるグループからその名がとられた)の名はたちまち全米に知れ渡り、ニューヨーク出身のフォー・シーズンズと並んでアメリカで最も人気のあるバンドとなった。1962年から63年は両グループとも出す曲がことごとくヒット。その決着をつけるかのように、1963年10月のワールドシリーズでは、ダウンタウンに近代化されたスタジオを構えるロサンゼルス・ドジャースが、王者ニューヨーク・ヤンキースを四連勝で負かしてチャンピオンとなった。このベースボール史上に残る名試合を支えたのはサンディ・コウファックス。ベースボール界の《教授》ことNYヤンキースの名監督だったケイシー・ステンゲルをして、対戦した中で最も優れたピッチャーと言わしめた、若きユダヤ系投手だ。試合の中継後、続いて画面から流れてきたのはサーフィンの映像と、ダイナミックなインストゥルメンタル「ミザルー」と「ザ・ウェッジ」を熱演するディック・デイル&ヒズ・デルトーンズだった。

 ロスに住むティーンたちにとってそれは青春を謳歌する毎日。そんな若者パワーを題材に、アメリカン・インターナショナル映画は一連の映画を製作した。第一弾はディズニー子役スターのアネット・フニチェロと、フィラデルフィア出身ティーンアイドルのフランキー・アヴァロンを主役に迎えた『ビーチ・パーティ』。しかし陰の主役は、ビートニク(サーフ)バンド役のディック・デイル&デルトーンズだった。続作『マッスル・ビーチ・パーティ』はあいかわらずのお気楽な内容だったが、この時はブライアン・ウィルソンがサントラを手がけ、ディック・デイル&デルトーンズが再び劇中のバンド役で登場した。結局、『ギジェット』と『ビーチ・パーティ』の《ビーチものシリーズ》だけで計四十本以上の作品が1963年から67年にかけて全米中の映画館に氾濫したことになり、テレビ番組やCMでサーフィン・サウンドに合わせてゴーゴーを踊る姿は60年代いっぱい見られた。女の子にとって、ヤードリー社カーナビーストリート・ブランドの化粧品と並んで、クレイロール社の《サマーブロンド》ヘアカラーは必需品だった。60年代なかば、モッズの嵐が吹き荒れようともそれは変わらなかった。高まる一方のサーフィン熱を見守っていたディック・クラークも、ついに『アメリカン・バンドスタンド』の本拠地を新たなティーンの楽園、西海岸へと移した。
「62年には彼の音楽のことも知っていた」とかつての《フォーク》ミュージシャンのヴァン・ダイク・パークスは言う。「バルボア半島にあるランデヴー・ボールルームで初めてビーチ・ボーイズを観たんだ。僕はプリズン・オブ・ソクラテスというコーヒーハウスに出ていて、彼はロックンロールをやっていた。こちらはアコースティックなのに、隣のロッククラブは人がひしめき合い、やんやの大騒ぎなんだよ。僕は車の小さなカーラジオでビーチ・ボーイズの音楽は時折聴く程度で、レコードを買ったことはなかったんだ。でも実際に観ると、あれには目を見張らされた。人生、変わってしまったね。」
 降り注ぐ太陽、ロリポップ、虹。ハリウッドのティーンエイジャーにとっての日常はそんな歌の文句がすべてではなかった。恵まれた気候以外に、ハリウッドにはメディアの中心地という顔があった。フィル・スペクターが作り出すレコードは聴こうと思えばすぐそこにあり、ゴールド・スターではエディ・コクランのロックンロールからメキシカンな香りを漂わせるハーブ・アルパート&ティファナ・ブラスまで、さまざまなサウンドが生み出されていた。
 しかしフィル・スペクターの音楽はとりわけオリジナルだった。『風と共に去りぬ』級のハリウッド大作の壮大さが三分間に凝縮されたロックンロール・シングル。彼の広角レンズがとらえるサウンドは、クリスタルズの「アップタウン」の社会性から「ダ・ドゥ・ロン・ロン」、そしてロネッツの「ビー・マイ・ベイビー」や「恋の雨音」のロマンティシズムまで幅広かった。未発表で終わったロネッツとの「パラダイス」や「アイ・ウィッシュ・アイ・ネヴァー・ソー・ザ・サンシャイン」のセッションでは、ワーグナーのオペラも顔負けのドラマが展開され、ライチャス・ブラザーズの「ふられた気持ち」、「アンチェインド・メロディ」、「ジャスト・ワンス・イン・マイ・ライフ」は大ヒットとなった。スペクターの贅を尽くしたレコーディングは、ライチャス・ブラザーズの「ひき潮」や1966年になってアイク&ティナ・ターナーが出したシングル「リヴァー・ディープ・マウンテン・ハイ」や「幸福でいっぱい」でピークを迎える。
 モダンなサウンドの極み。その華麗なプロダクションが生み出す艶やかなサウンドは、フィル・スペクターがレコーディングのモットーとした《明日の音を、今日!》の縮図そのものだった。ベルの音色、チャイムの響き、ロネッツの「ハウ・ダズ・イット・フィール」で聴こえるホーンの音色。それは夜のハリウッドが秘める魔法であり、ニュートラ、シンドラー、ロートナーといった近代建築家によってハリウッドの丘陵地帯に建てられた家々の明かりであり、プレミア上映を行う映画館が夜空に放つアーク灯だ。胸躍る興奮、ハリウッド・ブルヴァードのスカイラインが醸し出す不思議なオーラ。それは監督の「アクション!」というかけ声とともに生まれる魅惑の世界と同義語である。ブライアン・ウィルソンはどうしたらこんな風に《電光を瓶に閉じ込める》ことができるのか、それを知ろうと必死だった。

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《K&Bパブリッシャーズからお知らせ》

6月1日に書籍『SMiLE』が発売されます。お楽しみに!

2006年05月15日 16:29| 個別ページ

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