フライパンの寝言 - 藤村隆三郎
第2回 半世紀そのまま、パリのビストロ 2
話はパリの老舗、ビストロ・アラールである。
何故にアラールか、その一端は前回に書いた。
今回は、今年の秋もまた食してしまったお皿の話である。
何を食ったか。
食す前にひとつ(いや、もったいぶるわけではないが)、パリのとある美術館をご紹介したい。
国立陶磁器美術館だ。パリ西側の郊外にある。コンコルド広場からメトロ9号線でセーヌに架かるセーヴル橋まで行く。
ここには1763年以降の磁器が展示されている。
色彩豊かな皿が、ワッと並んでいる。豪華である。眼を奪われる。
それと比べると、ビストロ・アラールの皿の、なんとさっぱりしていることか。
アラールのそれは、ただの白い皿である。
味気ないといえば味気ない。貧相な印象さえ受ける。
しかし、それがわたしにはじつに心地よい。
なんでもない、ただの白い皿は、50年前の古典フレンチをいまなお供するアラールの、いさぎよさに通じるような気がするのだ。
では、料理を。
まずは、鴨のテリーヌ。
白い皿の肌に、琥珀色のジュレの輝きが映える。
ジュレには、素焼きの粘土のようなファルスが包み込まれている。
ファルスとは、肉を潰して練った状態をいう。
それは、数々の香料とコニャックを溶かしこんでいるのだが、ここで重要なのは、ジュレ、である。最近ではめったにお目にかかれないジュレだ。
ジュレは琥珀色、というよりも金色に輝いている。
この輝きが、内部のフォアグラの切り口を引き立たせる。
なぜ輝くのか。
最初に、鴨のファルスは、しっかりと焼いてからしっかりと冷ます。
しっかり、がまず重要である。
そこへジュレを流し込む。中身を空気に触れさせないように、封印するように、きっちりと閉じる。
この、しっかりときっちり、が、そこらにあるレストランではできない。時間も手間もかかる。腕もからむ。簡単なようで難しい。それをアラールでは昔からずっとやっている。見事にやっている。見事に、金色をやっている。
アラールだねえ、と思う。
ワイン?うん、サンヴェランにしてもらおうか。
シャブリよりコクのある白だ。
昔のビストロにはどこにでもあった。古いビストロなどではいまもグラスで用意しているが、だんだんと少なくなった。
サンヴェランと聞いたソムリエの後姿が、けっこう、と頷いている。
鴨のテリーヌはアラールの代表料理だが、もうひとつ、アラールを語るときに欠かせない皿がある。
鴨のオリーブ煮、だ。
代表料理、とは、ほかの店ではなかなか見つからない料理、ということであろうか。
その店のスペシャリテがどこの店でも食える、というのでは困る。
では、何故にアラールの鴨のオリーブ煮がスペシャリテとなったのか。
それは、次回にしよう。
2009年11月02日 21:29
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